2025/05/07 22:21

はじめまして、皿書店です。

世田谷区豪徳寺で小さな「食」の本屋をしています。

店名にちなんで、皿通信と名付けました。
何か書いておきたいことがあれば、ここに更新していこうと思います。気軽な気持ちで読んでくださると幸いです。

今回はソウル編です。

ソウルへ行った目的は本の仕入れと、店舗の開店に向けて準備中だったこともあり海外の書店の棚を覗いてみたいという思いがありました。また、食の本屋として隣国の食文化に少しでも触れておきたいと思っていました。滞在は4日間ほどでしたが色々な発見や出会いがありましたのでここに記録しておこうと思います。


2/21 金曜日

夕方に成田を出発し、仁川国際空港に着いたのは20時を過ぎていました。
氷点下10°前後のソウルは乾燥していて、5分も外に出ていると指先の感覚が無くなるような寒さです。

江南から1キロほどの教大(キョデ)駅を滞在地にしていたので、空港からはバスと電車を使って向かいました。ハングルは1つも読めませんが交通機関を利用して、無事1時間ほどで到着しました。昼から何も食べていなかったのでホテルに荷物を置いて、すぐに最寄駅周辺の飲食店を探索してみることにしました。

22時を過ぎて閉店するお店も増える中、大通り沿いのチェーンらしきお店に入りました。暖かいスープが飲みたいと思っていたので、看板のメニューに惹かれました。

タッチパネルでオーダーしたのは豚骨ベースのスープに、にゅうめん風の麺が入った済州の郷土料理、コギグクスでした。トッピングはごまとお馴染み韓国海苔。スープは豚骨らしいくさみもありつつ、一口飲んでみるとあっさりした感じです。

生の人参や葉物が食感のアクセントになっている

注文を待つ間、店内を眺めていると煮干しスープのメニューを見つけました。
日本にいるときはほとんど毎日蕎麦やラーメンを食べるくらい、煮干しやカツオ節のだしの味が好きなのですが、海外旅行で煮干しを使用したメニューを見たのは初めてでした。韓国に着いてすぐに、日本との食文化の近さを感じたような気がしました。

今日は移動で疲れていたので、ホテルに戻ってすぐ就寝しました。

2/22 土曜日

2日目の朝は快晴。昨日の寒さも少し和らぐような天気でした。
身支度をしたり行程を考えているうちに、お昼の時間が近づいてきました。目的の本屋に行く途中に素敵なご飯やさんを見つけました。

プゴク料理(干しタラのスープ)の専門店です。
30人ほどの行列ができています。
韓国ではプゴクをお酒を飲んだ翌朝に食べる習慣があるようです。後ろに並んでいたおじいちゃんは、お酒を飲まなくても来るよと笑顔で教えてくれました。

場所はこちら

タラの干身からやさしい風味のだしが出ていて、あっさり、疲れた体に染み渡るようなスープでした。付け合わせのキムチ類やアミの塩辛はご飯のお供として最高の脇役でいうことなしでした。

ちなみに、ソウル編はくいだおれ旅行となりました。原因は、韓国に行き慣れた方ならご存知かと思いますが、量が半端ではありません。提供された料理を完食するまで食べていたので、常に満腹感に付き合わなければなりませんでした。

そろそろ本屋の話をしようと思います。
ソウル旅で初めて訪れた書店は、The Book Societyでした。

三角の店舗ロゴがいい

店内の写真は控えましたが、壁や棚が全て黄色で統一され、平置きテーブルと従業員の作業スペースやレジが地続きに融合した空間設計が印象的でした。最初は少し身構えてしまいましたが、慣れてしまえば書籍に対する質問を店員さんに聞きやすく、すぐに距離が縮まりました。
日本の古本屋では人目につかない場所や奥の方にレジを置く傾向にありますが、来店者との距離をあえて詰めてしまえば、お互いにとって居心地の良い空間になることもあるのだと勉強になりました。

The Book Societyのすぐ近くにはギャラリーと食器などを販売するクラフトショップがあります。
韓国全土のアーティストの作品が手に入るようです。どれも欲しいものばかりでした。この辺りを訪れた際は、ぜひ立ち寄ることをおすすめします。

カラフルな木製の丸盆の展示中でした。

白磁。単体でも十分素敵ですが、スタッキングすると本領発揮します

その後何軒かの書店を巡り、夜ご飯にソルロンタンを食べました。
動物系の白湯スープに、塩で調整しながら味探しをするのが楽しかったです。佐賀のあっさりとしたとんこつラーメンに近い要素があるかもしれません。

ざく切りのネギがよく合う

食堂の様子。ご飯をスープに入れたり、ネギをてんこ盛りにしたり…
三者三様の食事を楽しんでいます

2/23 日曜日

土曜日に引き続き、光化門近辺の書店を巡りました。
このあたりは一本横道を入ると個性的なお店や住宅街を見つけることができてお気に入りの街です。

日本らしさも感じるけど、どこか異国情緒漂う古風な小道

初めに訪れたのは、BOAN BOOKSです。
1階にカフェがあり、2階は書店になっています。
書店はゆったりとしたスペースで、冊数はそれほど多くありませんが、ぜいたくに表紙を見せるディスプレイで1冊1冊の個性が際立ちます。

残念ながらこちらは非売品でしたが、食の本が多く見つかりいい収穫となりました(トマトと同シリーズの本は皿書店に数量限定で入荷しました)。

トマトが表紙のアートレシピ本、食に関わる雑誌などを見つけました

今日は南大門市場で お昼ご飯を食べました。
タチウオの看板が多く目に入り、ここの名物なんだなと一目でわかります。店先で英語付きのメニューを持ったオンマがカルチジョリムをお勧めしてくれたので、それをオーダーしました。

カルチジョリム。辛いけどご飯が進む味

見た目通りまあまあの辛さがあり、しばらくすると額から汗が滲み出てきます。しかし、韓国唐辛子の旨みのある辛さがとてもクセになります。
タチウオの身をほぐすと、綺麗な白身が赤いスープによく映えて、より一層食欲をかきたてます。

午後は息抜きがてら、国立現代美術館へ。
南北境界線に位置するDMZ(非武装地帯)の映像作品など、韓国ならではの作品も鑑賞することができました。併設のカフェにも立ち寄り、ゆったりとした時間が過ごせました。

中庭のオブジェ


光化門から少し足を伸ばして、ソウルを代表する独立書店YOUR-MINDへ。
10~20代の若い方を中心に、20坪弱の店内が人でぎっしりになるほど盛況の書店でした。店内は日本語のBGMが流れていて、下北沢にあるようなタイプの本屋さんの雰囲気も感じます。

果物が表紙を飾ることが多い雑誌、Science of the Secondary 


2/24 月曜日

書店巡りは続きます。

向かったのはこちらも韓国を代表する書店、THANKS BOOKS
オールジャンルの本を取り扱う新刊書店で、選書へのこだわりがとてもよく感じられます。
店内は30坪ほどあり広々していますが、中央の棚は人の腰くらいの高さになっており、レコードショップのような開放感があります。中規模の書店でもここまで見通しの良い店舗は日本であまり見かけないような気がします。

THANKS BOOKSでは装丁の綺麗なレシピ本など、いくつかの商品を購入しました

お腹が空いたので、お昼ご飯へ。
海鮮の具材がたくさん入った、チャジャンミョンを食べました。
写真で見るよりも相当な量がありますが、あっさりした味付けで最後まで美味しく食べ切ることができました。

チャジャンミョン(ジャージャー麺)が有名な中華料理店。つけ麺みたいな見た目。

ソウルを散歩していると、突然本屋さんが見つかることがあります。こちらは絵本を専門にしている本屋のようです。

半地下の絵本屋さん。店内の様子がよく見えます

そういえば、日本の駅前に古くからあるような古本屋さんをほとんど見かけることがなかったのですが、ソウルには今も存在しているのでしょうか。
大邱出身の知人が本の仕入れに協力してくれるのですが、実家の近くに古本屋さんがあるそうです。そこでは、危険なほど高く横積みされた古本が売られているようです。どうやって本を手に取るのか不思議ですが、宝探しをする気分が味わえそうなので同行してみたい気持ちでいっぱいです。

夜ご飯はかねてから楽しみにしていた、チュオタンのお店へ。

Namdo Restaurant。入る前からワクワクしてしまう店の佇まい。

チュオタンは、ドジョウのスープです。
夏に食べる習慣があり、南原式やソウル式などいろいろあるみたいですが、こちらは最もポピュラーな南原式のようです。

優しげなオンマが大きなお盆を運んでくると、少し爽やかな野菜の香りが漂ってきました。
初めて食べるドジョウ料理に一瞬躊躇いましたが、一緒に煮込まれた野菜のおかげか、想像以上にくさみがなく味付けも素朴で食べやすい。ご飯との相性も良いです。
卓上の山椒をかけると、味が少し引き締まり、香りもさらに爽やかになりまます。2人前くらいの鍋サイズのスープでしたが、気がつくと完食してしまいました。

チュオタン

2/25 火曜日

最終日の今日もできるだけたくさんの本屋さんに足を運ぼうと思い、仕入れも積極的に行いました。

ミステリーの本だけを専門にしている、MYSTERY UNION

こちらはミステリー好きの若い方が訪れていて、熱心に店主さんと本のお話をされているのが印象的でした。
コンセプトや専門性の高さで支持を集めているようで、皿書店のロールモデルとなるような書店でした。皿書店(7.5坪)と同じくらいの小さな店舗という点でも本屋さんとして成り立たせているところを見ると、とても勇気づけられました。

お昼はタッカンマリのお店へ。

丸鶏が1匹分入ったタッカンマリ。
目の前で煮込まれたばかりの丸鶏のスープは一口飲むと、香りも出汁もとてもよく出ていてフレッシュさが桁違いです。


食べる前に食べやすい大きさにカットしてくれます

締めのうどんを投入して塩で味付けをしながら食べていくと、自分好みの極上の塩スープを作り出せます。このスープのためだけにソウルに戻ってきたいと思えるほど美味しいです。

ソウル旅のラスト書店はソウル中心地から少し離れて、BOOK BY BOOKへ。
こちらは店内でビールを飲むことができる、韓国でも珍しい書店です。
早速ビールを頼んで、店内を見てみることにしました。

オリジナルのレモンビール

韓国で話題の新刊を中心とした品揃えで、斜めに作られた本棚がとても印象的でした(イラストの木製の棚と同じものです ※下部に添付)。

幸いなことにオーナーのキムさんと少しだけお話しさせてもらうことができました。
イベントや物販のサービスも充実させていることや、SNSにAIを取り入れて積極的な発信に取り組まれるなど、明るく精力的な印象の方でした。一方で、韓国における書店業界の厳しさも教えてくれました。
キムさんは、みんなスマホばかりで本を読んでくれない…と嘆いていました。

ソウルで地下鉄やバスに乗っていた時に感じたことは、車内で紙の本を読む人が東京よりも少ない、ということです。これは憶測にすぎませんが、電車内の読書人口でその国のだいたいの読書率がわかるような気がします(電子で読む方も増えているので、正確な数は分からないですが…)。
東京では1車両に1人くらいは読書している方を見かけると思います。以前訪れたイタリアでは、2~3人ほど読書している方を見かけました。しかも読書している性別や世代もばらばらなのが興味深く、どのように読書文化が浸透しているのかとても関心を持ちました。

一方で、個人で本屋を始める方が増えていることも教えていただき、日本の書店ブームと重なるところも感じました。これから営業を続けていく上で、韓国の書店の生存戦略から学べることがたくさんありそうです。

1号店のイラスト。

BOOK BY BOOKではキムさんから紹介していただいた、ペク・ヒナさん(韓国を代表するアニメーター)の絵本を2冊購入しました。ヤクルトをストローで吸うおばちゃんの表紙で有名なあの絵本です(日本語訳もあります)。
出国の時間が近づいてきたので、また会うことを約束して仁川国際空港に向かいました。

仕入れの旅はまだ終わっていません。ソウルから直行で台北に行ってきたので、その模様は次号でお伝えしたいと思います。

ここまで長くなりましたが、読んでくださりありがとうございました。

皿書店
seki

韓国滞在時の平均歩数